【しもおく奈歩議員】 福祉医療委員会で視察に伺った、愛知県がんセンターについて質問します。昨年4月に「新愛知県がんセンター基本構想」が、今年3月には「整備基本計画」が発表されました。愛知県立病院の柱である愛知県がんセンターの現状と今後についてうかがいます。
現在、愛知県内には、国が指定するがん診療連携拠点病院が19,県が指定するがん診療拠点病院が10カ所あります。二次医療圏ごとにみると、愛知県がんセンターがある名古屋・尾張中部医療圏には合計12病院ありますが、一方で東三河北部医療圏には一つもありません。国はいま、がん医療について、医療機関の競合ではなく、連携と機能分担を進める、としています。あわせて「がん医療の均てん化」として、どこでも、がんの標準的な専門医療を受けられるように、医療技術等の格差是正をはかるとしています。まず、現在のがんセンターは、どういう役割があるのでしょうか伺います。
【病院事業庁担当課長】 「病院事業中期計画」において、がんセンターの目指す方向を、「病院と研究所が一体となって、高度な医療安全のもとで明日の医療を開発する「総合がんセンター」として強みを発揮し、愛知県から日本をリードする、独創的ながん医療・研究を推進する」としています。がんセンターは、県全体のがん診療体制の中核を担う「都道府県がん診療連携拠点病院」に指定されており、愛知県がん診療連携協議会を運営するなど、本県のがん医療の中心的施設として、他の拠点病院等と連携し、県内のがん医療水準の向上に努めています。
【しもおく奈歩議員】 臨床と密接につながった研究機能、他の病院では対応できないがん領域の治療を担う、また予防から治療、リハビリ、緩和ケアなど総合的な機能の充実など、県立のセンターならではの積極的な役割を担っていると思います。また、県立のがんセンターは単に名古屋・尾張中部医療圏の拠点病院の一つにとどまらない全県的な役割を果たしています。ところが整備基本計画では、センターの病床数を現在の500床から410床へ90床も削減する計画です。あまりにも大きな削減計画です。
そこでうかがいます。基本計画策定時点では、がんセンターがある名古屋・尾張中部医療圏は、愛知県地域保健医療計画ではオーバーベッド地域として病床削減の対象エリアとなっていました。がんセンターの病床削減は、二次医療圏の病床削減の一環なのでしょうか?臨床と密接につながった研究機能の強化にも病床数の維持は不可欠ではありませんか。愛知県全体のセンター機能を果たすには、現在の病床数を維持すべきではありませんか?答弁を求めます。
【保健医療局担当課長】 新愛知県がんセンターの病床規模410床は、がんの治療が入院から外来にシフトしていることや、平均在院日数が短縮しているなど、最新のがん医療を取り巻く状況を踏まえて設定したものです。410床は、二次医療圏ごとに定めた基準病床数を踏まえて設定したものではなく、新しいがんセンターに必要となる機能を実現するために適切な規模として設定しています。
【しもおく奈歩議員】 命を守るためにも、病床削減は見直すべきです。病床を削減する一方で、整備計画では、「病棟の個室化を推進する」とあります。プライバシーや感染対策としての個室化は必要ですが、気になるのは患者の負担です。
最先端のがん治療にはただでさえ保険適用外の高額な費用の発生ケースが少なくありません。部屋代いわゆる差額ベッドも大きな負担ですが、これは病院の裁量で料金を設定できます。患者負担を抑えるために努力できる分野です。現在は500床のうち特別室(個室)は4ランクありますが全部で93床。病床数の18%。一日8,800円から最高額は37,400円です。一泊すると2倍です。 現在、特別室のランクごとの病床稼働率はどうなっているのかお示しください。個室を増やすことが、整備計画に示されています。料金を値上げせず、有料個室の割合は現状を維持して、患者負担を抑えるべきと考えますが、どのような視点で個室を検討していくのか、お聞きします。
【病院事業庁担当課長】 昨年度の決算ベースの利用率は、最も広いA室が91.1%、B室が93.2%、C室が95.9%、D室が98.7%、有料個室全体で95.5%と非常に高い水準であます。新しいがんセンターの有料個室については、現在の個室の利用状況のほか、他県のがんセンターや近隣医療機関等の状況も参考にしながら、今後、適切な設定となるよう検討していきます。
【しもおく奈歩議員】 計画では、「相談・支援の充実・強化」も位置づけられています。視察に行った際に、がんセンターのメディカルソーシャルワーカーから、人手不足の深刻な現状をお聞きしました。センターに来る患者さんの多くが、身体的につらいだけでなく、精神的にも経済的にも社会的にも苦しみ、家族や仕事の関係でも様々な不安をかかえており、ソーシャルワーカーの役割は他の病院にもまして重要です。加えて、「県外からも相談がある」「たくさんかかってくる電話もとりきれない」ともお聞きしました。来院前後の方々からも頼りにされているのです。
患者さんやそのご家族がいつでも安心して相談できる体制を整えることは急務です。センターの建替えを待つことなく、メディカルソーシャルワーカーの体制をただちに改善すべきと考えますがいかがでしょうか。
【保健医療局担当課長】 都道府県がん診療連携拠点病院の役割を果たすとともに、患者さんやそのご家族のニーズに応えるため、メディカルソーシャルワーカーの定数を増員し、2023年度から2名体制として、療養に関する相談や社会復帰に向けた相談支援体制の強化を図っています。しかしながら、社会福祉職へのニーズの高まりによる人材不足の影響から、2025年10月1日現在、定数2名に対して1名の欠員となっています。社会福祉職の充足に向け、通常の職員採用試験に加えて、受験資格の年齢要件を30歳から61歳までに設定した「特別募集」も実施するなど、県全体で人材確保に努めているところであり、今後とも相談支援体制の充実に努めていきます。
病院運営にPFI導入は 弊害が多い
【しもおく奈歩議員】 整備手法についてもうかがいます。整備計画では、建て替えにはPFI手法を導入し、発注を効率化する。病院部門の運営にもPPP手法の導入を検討する。その事業範囲は今後検討するとしています。
病院へのPFI手法の導入についていくつかの課題が指摘されています。第一に、変化への対応に追われることです。長期間の業務委託まで一括発注できるのがPFIのメリットとされていますが、医療技術の進歩・変化のスピードが速く、医薬品や検査など医療費用の増大も予想を超え、設定した範囲の予算と人では業務をこなせず、契約の変更が頻繁に必要になっています。第二に、チーム医療に支障がでて、非効率になりかねないことです。医療本体と関連サービス部門が別々の管理となり病院内の指揮系統が複雑になります。第三に、競争性が確保されなくなっています。一社だけの応募が増えています。競争原理は働かず、逆に企業に言われるまま費用が増加することになりがちです。
加えて、愛知では研究所と病院が一体となったセンターです。その特性を発揮するのに、PFI、PPP手法が最適なのか、よくよく考えてみる必要があります。 なぜ、PFI、PPPの導入を計画したのか、病院におけるメリット、デメリットについてどのような検討がされてきたのか、お答えください。(※ 病院の業務分類)
【保健医療局担当課長】 PFI・PPP手法の導入により、民間事業者のノウハウを活用し、設計・建設・維持管理・運営までを一体的に行うことで、事業コストの削減と質の高いサービスの提供が期待されるというメリットがあります。新がんセンター整備においては、このメリットを活かせるよう、PFI・PPP手法を導入することとしました。
「変化への対応に追われ、契約の変更が頻繁に必要になる」ことについては、基本構想において、将来的な医療の変化に柔軟に対応することとしており、PFI導入によるデメリットとは考えていません。「チーム医療に支障がでる」ことについては、病院が行う医療分野は、PFI事業の対象外となりますので、そうした問題はないものと考えています。「競争性が確保されない」との指摘については、複数の企業が入札に参加し、競争性が確保できるよう、参入可能性のある企業に対しサウンディングを行い、企業側からの意見や提案などを幅広く聴取していくこととしています。
【しもおく奈歩議員】 ある病院は、医療技術や診療改定など変化が速く困難があるとPFI方式を断念したケースもあります。慎重に検討する必要があると思います。(参考 仙台市立病院 PFI不採択決定(H21年))
愛知県がんセンターの将来構想を検討する「がんセンター整備有識者会議」は4回開かれていますが、県の政策調整監と政策顧問がオブザーバーとして参加しています。端的にうかがいます。政策顧問は建設コンサル会社の社長であり、医療とは畑違いの方だと思います。保健医療局の方で招いたのですしょうか?それとも、顧問の方から参加したいとの希望があったのですか?答弁を求めます。
【保健医療局担当課長】 植村政策顧問については、社会基盤整備について豊富な知見を持っており、基本構想策定に当たり、助言・意見を参考にさせていただくため、オブザーバーとしてこちらから参加をお願いしたものです。医療については、国立がん研究センター名誉総長や名古屋大学医学部附属病院病院長などの専門家が委員として参加しています。
【しもおく奈歩議員】 今、包括外部監査の報告で政策顧問の役割について、とりわけPFI手法との関係でいくつかの問題点が指摘されています。そうした現状のもとで、政策顧問の関与は遠慮していただくべきと考えます。意見を聞かなければいけないのは、PFI推進の政策顧問ではなく、がん患者とその家族、支援者のみなさんです。専門的な検討事項も多いとは思いますが、がん患者やその家族など当事者の参加が、がんセンターの整備計画には欠かせません。基本構想の策定にあたっては、患者の声や意見を聞いたのでしょうか?当事者の声、患者の声を聴く場を設ける考えはありますか?答弁を求めます。
【保健医療局担当課長】 有識者会議の委員として、認定 NPO 法人マギーズ東京共同代表理事マギーズ東京センター長の秋山正子(まさこ)氏に就任いただいています。マギーズ東京では、心理的、社会的支援を必要とするがん患者、家族が、看護師や心理士に気軽に相談ができるような施設を運営しています。有識者会議においては秋山センター長から、患者目線でのご意見をいただきました。今後も、マギーズ東京の秋山センター長には、必要に応じてご意見を頂いていきます。
【しもおく奈歩議員】 効率化やコストカットではなく県民の医療、命を守る重要な役割を果たす病院の体制を維持していくことを要望し、質問を終わります。