【しもおく奈歩議員】 高齢化が進むとともに、耳が聞こえづらくなる「加齢性難聴」があります。国立長寿医療研究センターは、難聴有病率(軽度難聴以上の難聴がある人の割合)は65歳以上で急増し、70歳代前半では男性の約5割、女性の約4割、70歳代後半では男女とも約7割、80歳代では男性の約8割、女性の約7割に軽度難聴以上の難聴がみられますと解説されています。また、その長寿医療研究センターを中心としたグループの研究では、「海外の研究から難聴は、認知症の危険因子であることがわかった」「地域在住高齢者では、難聴があると認知機能低下の合併が1.6倍多いことがわかった」と明らかにされていました。
さらに、国の認知症施策推進大綱でも、「認知症の予防、診断、治療、ケア等のための研究」について述べている項目で、認知症の危険因子の一つに難聴もあることが示されています。まず、認知症と加齢性難聴との関連について、県の認識を伺います。
【地域包括ケア・認知症施策推進室長】 国立長寿医療研究センター等の研究によって、難聴と認知機能低下の関連性は指摘されている一方、難聴になった結果として認知症になるのかといった、因果関係につきましては、現時点で明確になっていないとも聞いております。今後も認知症発症のリスクとなる問題として、関連する研究等を注視してまいります。
【しもおく奈歩議員】 研究上や国の大綱でも示されているので、こういう問題はよく見ていただきたいと思います。
加齢性難聴は、認知症にとどまらず、コミュニケーションの低下、うつ病、社会的孤立など身体的、社会的な問題にもつながっていく可能性があります。年金者組合が現在行っているアンケートで、回答した全員が「聞こえが悪くて困ったり問題を起こしたりすることがある」とこたえていました。「会話が正確に聞こえないため、誤解することが度々ある」「大きな声ではなしてと言ってしまうことがある」「映画を見ていて、セリフが半分くらい聞こえなくてショックだった」など、声が寄せられています。
また、聴力の低下により「会議中の他の人の声は聞こえない。めんどくさい話は聞こえない方がいいと思って、そのままにしていた。そうすると、困ったことに不自由が出てきて何度も聞くと怒られるようになりました。大きい声で話してくると、怒られてばかりのようで、気分が落ち込んでしまう。耳の不自由さが生活全般に悪い影響を及ぼすようです」という、経験談が、年金者組合のニュースで紹介されていました。
そこで、伺います。生きていくなかで大きなリスクが高まる、加齢性難聴。聞こえの支援の重要性について、県の認識を伺います。
【高齢福祉課担当課長】 聴力は、生活の質を維持していく上で大切であり、「聞こえづらさ」を感じた時には早めに医師等に相談していただき、状況に応じて生活上のアドバイスや医療的な支援を受けていただくことが望ましいと考えております。
【しもおく奈歩議員】 加齢性難聴は、早めの診断と言われましたけれども、現時点で、加齢性難聴に対して聴力そのものを改善する治療はありません。できるだけ早くから補聴器を使って「聞こえ」を改善し、言葉を聞き分ける能力を衰えさせないことが重要だと思います。東京女子医大足立医療センター耳鼻咽喉科の水足准教授は、「使わない筋肉が瘦せていくのと同じで、言葉を理解するのをあきらめると、理解できる言葉を聞いても脳が即答できなくなる」人との会話がおっくうになり、社会活動が低下していくリスクをこう例えています。「そのリスクは、補聴器を使うことで予防可能」と説明します。
ところが、日本補聴器工業会がまとめた世界16カ国の補聴器普及率の調査報告では、イギリス53%、フランス46%、ドイツ41%、韓国37%などと続き、最下位の中国10%に次いで低いのが日本15%となっています。普及率が低い要因はいくつかありますが、その中で「購入時の費用助成が低い」ということもあります。
補聴器は、小型で精密な機械のためそれなりに値段が高くなります。年金者組合のアンケートの中でも、両耳での購入費は40万~30万円との回答がありました。一番低い方でも、10万円でした。片耳でも、20万~30万円という回答でした。
高額の費用負担から使用を躊躇する人を減らそうと、購入費助成を行う自治体が増えていきました。愛知県内で「補聴器購入助成」を行っているのは、30市町村56%で過半数を超えました。しかし、所得制限の有無など市町村によって様々です。都道府県では、東京都につづいて、山梨県が市町村補助を開始をしたそうです。
補聴器は、一度購入したら終わりではなく、電池の購入費や5年後に買い替えも必要です。また、補聴器は自分に合うように調整が必要とのことです。憲法25条、健康で文化的な最低限度の生活を保障するために、公的な支援が必要です。
そこで、伺います。補聴器は社会参加の必需品であるにもかかわらず、年金などで暮らす低収入の高齢者には手が届かないほど高額です。加齢性難聴者へ聞こえの支援として、補聴器購入助成を県として行うべきと考えますが、いかがでしょうか。
【高齢福祉課担当課長】 高齢者を含め身体障害者手帳の交付対象となる聴覚障害がある方に対しましては、補聴器の購入等に要した費用について支給制度があります。
身体障害者手帳の交付に至らない、加齢性難聴者への助成制度の導入については、高齢になりますと、聴力に限らず様々な身体機能が低下するところであり、これらについて、どこまで公費による助成を行うことが適切かどうかということも含め、慎重に対応する必要があると考えております。
【【しもおく奈歩議員】 慎重に対応、ということですが、これは本当に社会参加ができなくなる、家から外に出るのも耳が聞こえづらいということで、社会参加が難しくなっているということがあるので、積極的に私は、公費をしっかり検討していく必要があると思います。しんぶん赤旗の記事によりますと、東京都港区では、補聴器相談医が補聴器の装用を必要と認めた60歳以上の住民に、13万7千円まで助成します。住民税課税者には2分の1、制度を始めた22年度の利用は523人と、当初の見込み220人を大きく上回ったそうです。住民からは「制度があったから購入できた」「聞こえるようになり、集まりにも行けるようになった」などの声が寄せられたといいます。
市町村は既にやっていますが、愛知県として市町村まかせにせず、聞こえの支援へ補聴器利用の促進を図り生活のリスクを軽減し、高齢になっても自分らしく生きていけるよう、補聴器購入助成へ検討をお願いします。
早期発見のための健診や相談支援、適切に補聴器の調整が行われるための 仕組みづくりも必要です。WHOは、平均41デシベル以上しか聴き取れない方に補聴器の使用を推奨しています。難聴を悪化させないためにも、早めに手を打つことが必要です。
しかし、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によると日本は、難聴を感じた際の受診率が低いと補聴器普及率の低さの理由のなかで述べられています。
そこで、伺います。県は、早期発見、早期対応が重要だという認識をお持ちでしょうか。また、早期発見のための検査の必要性とその費用への財政支援や相談支援など、当事者や専門家の意見も聞き取り検討していただきと思いますが、いかがでしょうか。答弁を求めます。
【高齢福祉課担当課長】 聴力に限らず心身の機能の低下や不調を感じた際は、早めに、医師や専門職に相談いただくことが重要と認識しております。 加齢性難聴の早期発見・早期対応については、厚生労働省が、令和5年度及び令和6年度に難聴高齢者の早期発見・早期対応に関する調査研究事業を実施しており、事業の中で作成された、難聴高齢者の早期発見・早期介入等に向けた手引きとその活用について、厚生労働省から市町村等へ周知されているところです。
財政支援や相談支援等につきましては、先ほどの答弁とも重なりますが、県としましては、高齢になりますと、聴力のみならず様々な身体機能が低下するところ、これらについて、どこまで県として公費による支援を行うことが適切かどうかということも含め、慎重な対応を要するものと考えております。
【しもおく奈歩議員】 大変、この点について消極的だなと思います。2025年3月7日、日本耳鼻咽喉科頭頸部 外科学会含め8団体が「共生社会の実現と健康寿命の延伸を目指した加齢性難聴対策に関する共同宣言」を出しました。
その中で、「加齢性難聴は、コミュニケーションの低下だけではなく、認知症やうつ病、社会的孤立といった様々な身体的社会的な問題につながる可能性があります。それら心身への悪影響を防ぐため、中年期以降、老年期になるまで医師による適切な健康管理を受ける必要があります。健康寿命の延伸には、聴覚を最大限に活用したコミュニケーションの早期支援の導入が大切です。そのためすべての世代に難聴スクリーニング制度の整備、医師による医学的管理を認知症や軽度認知障害の人も含むすべての高齢者に対して行うことが重要です。」と、述べられています。
宣言では、宣言1「難聴者が自信をもって生活できる共生社会づくり」、 宣言2「難聴の進行の軽減と新知見獲得」、 宣言3「聴こえ8030運動、80歳で30dBの聴力、または補聴器をした状態で30dBの聴力を保つ、を支援し健康寿命延伸に貢献する」、 宣言4「欧米と比べて難聴者の補聴器や人工内耳の装用率が低い現状打破をめざし、難聴を感じた際の受診率、医師から補聴器を提案される率、補聴器の満足度、補聴器購入を助成する自治体の比率の4項目について80%以上という数値目標を設定し、段階的に達成をめざす」と、書かれています。
この宣言も受け止めて、県として加齢性難聴への支援を積極的に取り組んでいくことを強く求め質問を終わります。