日本共産党 しもおく奈歩です。只今議題となっております 第1号議案「デジ
タル技術の活用による豊かで便利な社会づくり条例」について反対の立場から討論します。
デジタル技術の持つ可能性について否定するものではありませんが、条例がめざすデジタル社会の形成については賛成できない点がいくつかあります。以下、順次、反対理由を述べたいと思います。
第一に、条例がめざしているのが、産業競争力の強化におかれている点です。デジタル技術の進展は確かに生産性の向上にも寄与すると思います。しかしデジタル化の進展による産業競争力の強化は、経済界、企業の担うべき課題であり、条例化して行政が取り組むべき性格のものではありません。いまでも産業界の要望に必要以上に応えているのが愛知県です。県民のくらしより、産業競争力強化が優先の愛知県を後押しするものになっています。
第二に、条例では、人口減少や少子高齢化の問題、子育てや介護など地域社会の課題について、デジタル技術の活用がその解決に資するかのように描いていますが、それは課題の本質的な解決から目をそらすことにしかならない点です。社会課題の解決には、デジタル化の前に住民の経済的負担の軽減など愛知県がやるべきことがたくさんあることを指摘しておきます。
第三に、デジタル技術の活用・推進は必ずしも行政サービスの利便性向上につながらないからです。行政のデジタル化の推進によって、窓口の減少、紙手続きの廃止、対面サービスの後退などの事例が相次いでいます。2021年のデジタル改革関連法では、全ての自治体に対し、国が決めた基準に適合したシステムの利用を義務づけており、全ての自治体の基幹業務システムを、デジタル庁が統括・監理するガバメントクラウドに移行することを目指しています。複数の自治体が共同でシステムを利用する「自治体クラウド」では、国が仕様変更(カスタマイズ)を認めないことが問題となり、自治体独自の福祉や医療の減免制度がカスタマイズできないことを理由に拒否されるケースまで生じています。総務省は、半分の職員数でも担うべき機能が発揮される「スマート自治体」への転換を目指す、と打ち出し、総合的な住民サービスを後退させる自治体職員の大幅な削減につながらないか、との懸念も消えません。
第四に、デジタル化への県民の不安と不信が払しょくされていない点です。マイナ保険証の活用が始まりましたが、いまだに数多くの医療現場でトラブルが起きています。また重要な個人情報である所得区分が漏れているケースも発覚しました。国と自治体の個人情報保護法制は、情報を保有している側の行政や企業などに縛りをかけ、個人情報を守る仕組みになっていましたが、デジタル化の推進のなかで、この大企業が個人情報を利活用できるように、個人の情報と権利を守る規定は次々に緩められてきています。このような問題は依然として解決していません。
条例では、「適切な情報セキュリティ対策が講じられなければならない」としていますが、そのための具体的な歯止めはどこにもなく、県は、県民が様々なリスクに対処できるように啓発および学習の機会を充実する、としているだけです。このまま県としてデジタル化を推進するならば、さらなる県民の不安と不信を招きかねません。条例をつくる前に、マイナ保険証の推進などで生じた県民の不安と不信の解消こそ急務です。
第五に、県民の役割についてです。条例では、「デジタル技術の活用に関する理解と関心を深めるとともに、県又は市町村が実施するデジタル社会の形成に関する施策に協力するよう務めるものとする」とあります。県民一人ひとりがデジタル化にどう対応するかは個人の自由であり、その役割を条例で規定することは県民の自由な意思を縛ることになりかねず、条例に努力規定とするのはふさわしくないものです。
以上、五点が本条例案に賛同できない理由です。本条例の制定は、すべての県民及び県行政を産業競争力強化のためのデジタル社会の形成へ協力するよう強く迫るものとなりかねず、自由で豊かな社会づくりとは相いれない、と申し上げて、討論とします。